大統領選と統計学
今年は米国の大統領選がある。予備選は現在、民主党はクリントン氏、共和党はトランプ氏が優勢。では本選はどちらが勝つか?
賭けるのなら民主党だ。
理由は簡単。ネイト・シルバーが運営する FiveThirtyEight がそう予想するからだ。
何故か?ネイト・シルバーはMLBなどの分析で使われるセイバーメトリクスなどを応用し大統領選を統計的に予想してきた。前回、前々回とほぼ的中させている。これは画期的だった。何故なら政治学者や専門家の予想を差し置き、ほぼ正確に言い当ててしまったからだ。
この事実と実績を見るにつけ、統計学の予測の正しさに舌を巻く。また野球と統計学は相性が良く、セイバーメトリクスを用いたアスレチックスの成功がマネーボールなどで描かれている。
トラッキングデータの憂鬱
サッカーと統計学は今のところ頗る相性が悪い。偶発性が高い上に試合数が少ない。長すぎるスパンでは平坦化され特性が見えなくなり、短いスパンではサンプル数が少なく隠れた外れ値がチームやリーグの特性として算出されてしまう可能性もある。平均化される前に、監督が変わり、選手が変わり、レギュレーションが変わるのだ。
Jリーグがトラッキングデータを提供し始めたのは昨年からだろうか。これを見ているとこう思う、「走ること」が「勝敗」に繋がらないのだろうかと。データを見てもらおう。
湘南が距離スプリントとも1位でリーグ順位は最下位である。ちなみに昨年も湘南がどちらも1位だ。もし走れる方が強いのならばグラフは順位の通り右肩下がりになるはずが、そうなっていない。
湘南の今シーズンの対戦を振り返るとナビスコグループリーグで走行距離17位の名古屋に勝ち、リーグで走行距離14位の川崎と16位の広島に引き分け走行距離7位のマリノスに勝っている。と、言われても走力がある方が有利だと納得できないだろう。
例えば、同じ技量の20代のチームと40代のチームであれば20代のチームが勝つはずだ。若い方が足も速いし持久力もあるから当然だ。40代に勝ち目があるとは思えない。
「走ること」が「有利」なのは論理として破綻していない。
走れる湘南と走れない神戸の差は10kmあり、この差は選手一人分ぐらいである。その神戸がリーグ順位10位なのだから、その差は戦術や戦い方で埋められるという方が妥当だろう。
「走れる」湘南と「走れない」他チームとの間に圧倒的な差が無いというのが実情で、「走ること」が「勝敗」に繋げられるほどの差を作っていないと言える。
寧ろ走行距離やスプリント回数の差は戦術や戦い方の違いを示す指標のように見える。広島と浦和が似ているのはフォーメーションだけなのはこの数値からも窺える。
サッカーの不都合な真実
サッカーの統計で何個か気になる数字を見つけたので紹介する。
- ゴールの44%は幸運によるもの
- サッカーは一試合平均、約400回攻守が入れ替わる
- 選手が一試合にボールを扱う時間は平均53秒
- ボールと一緒に移動する距離は190メートル
1はソースを見ていないのでわからないがオウンゴールやミス、誤審など含めれば妥当そうな数値に思える。
2はポゼッションのボールの支配に対してのアンチテーゼだ。どれだけうまくやろうとも100%ボールを支配できない。よくポゼッションできたと思っても大抵7:3ぐらいだ。常に攻守は入れ替わり、入れ替わるということは相手ボールである。
3と4はセットだろう。一選手が一試合にボール扱う時間約1分、移動距離約200メートル。誤差分を考慮して10人と考えると、チームで10分と2キロ。
平均アクチュアルタイムを55分として、チームで115キロ走る。その内10分ボールを扱い、ドリブル距離は全走行距離の2%弱。残り10分は相手ボールで守備に走り、残り35分はボールを追い走るのだ。
「賢く走れ」というのは正しい。走れるに越したことはないが効率的であるかが重要だ、相手も同じぐらい走るのだから。
浦和のウィークポイント
今年の浦和は好調だ。浦和の強みはポゼッションとコンビーネション、そしてサイドからの崩しである。今シーズンからハイプレスを指向し今まで以上に速い攻守の切り替えを実践している。ラインも高くハイプレスが躱された場合、カウンターを受けやすい。それでもこの戦術を執るのは監督に出来る自信があるからだろう。
しかしここ数年、優勝の一歩手前で常に浦和が露呈してきたウィークポイントはカウンターに弱いということだった。裏に通されれば弱い。カウンターに秀でたチームに90分間の集中力だけでは防ぎきれず敗北する繰り返し。
今までの試行錯誤は強みの強化であった。カウンターを受けない為のポゼッションへの執着で、その答えは上に書いてある。
全て支配はできないのだ。
そして出した答えは完全にイカれている。奪われたボールをパス出される前、持ち出される前に刈れ、である。ハイプレスが躱された先にカウンター地獄が待ってる。
浦和を手繰る遠藤航
しかし真に浦和は運がいい。イレイザーヘッドな監督の押し付ける無理難題を解くカギがあったのだから。このシステムでアンカーに適した選手は少なくとも日本には二人しかいない、阿部勇樹と遠藤航だ。
アンカーを遠藤航が務めることになってから安定しだした。まるで遠藤航は阿部勇樹の生き写しの様だ。止める、蹴る、走る、競る、跳ぶ。基本的なスキルを高精度にこなし、適切なポジショニングとリスクマネージメント、相手との間合いの取り方、体の入れ方、一対一の強さ。
移籍してきた遠藤航の守備の上手さに驚いている感じは移籍時の阿部勇樹を彷彿させる。共に攻撃的なボランチとして期待されながらCBで活躍するという筋書きもACLを戦うことも共通している。
遠藤航がアンカーに入ったことでカウンター時の一対一も軽々と凌ぎ、安心感があることが阿部の積極的な守備へと好循環となり、西川の広い守備範囲を信頼しての強気な高いラインを維持することで、他の追随を許さぬハイプレスを実現できている。
向こう見ずな監督とアグレッシブな戦術、其れをこなせる選手達がいることで昨年とは違い圧倒的な地力の差を見せ付けるような戦いが出来ている。後は簡単、結果を出して証明するだけだ。
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