マネーJリーグ -Jリーグ&海外クラブ収益ランキング-


目次


  1. Jリーグ全体の営業収益が1000億円超
  2. Jリーグ営業収益ランキング
  3. 海外ビッグクラブの営業収益ランキング
  4. 売上高1000億円の規模
  5. Jクラブの親会社比較
  6. 潜在的なマネーリーグ

Jリーグ全体の営業収益が1000億円超


2017年度のJクラブ個別経営情報が開示され、J合計で営業収益1105億6200万円となった。


Jリーグ営業収益ランキング


J1~J3全体で営業収益順に並び替えたグラフ


クラブ数が多いので30位までに絞ると


今年昇格した長崎の昨年のJ2での営業収益が約10億円。1位の浦和は長崎の8倍、2位~5位は長崎の5倍の収益を上げている。昨年J2で過ごした名古屋は堂々の7位であるがぎりぎり昇格を果たした。
営業収益を言い換えれば売上高である。では、このランキングのまま営業利益、経常利益、当期純利益を各クラブ比べると


この通り、売上高が大きくても儲けているとは限らない。

海外ビッグクラブの営業収益ランキング


デロイト・トーマツが毎年発表している「Football Money League 2018」によれば、ランキングTOP20は以下の通りである。


マンUやレアルは900億円以上の収益を上げてる。1クラブでJリーグの収益1000億に匹敵する額である。
また見て分る通りプレミア勢が20クラブ中の半分を占めている。21位~30位までの間にも4クラブがプレミア勢なので金満リーグであることに疑いはない。

ではこの収益の内訳はどうなっているか?


収益の約半分が放映権収入となっている。

ではJリーグはどうか?


Jの場合、半分を広告収入が占めている。入場料収入の比率はヨーロッパと同じ17%、放映権収入は11%である。(ちなみに、「その他収入」は大会の賞金等である)

放映権料の高騰は視聴者数の増加が理由だろう。ヨーロッパの名門クラブがネットの情報や動画、SNSによって世の中に広く知れ渡り、オイルマネーやチャイナマネーを引き込んだ結果と言える。

マンUの営業収益は浦和の11.6倍、浦和は町田の11.1倍であるから、世界的ビッグクラブの売上をJリーグの縮図に例えれば、JリーグはFC町田ゼルビアぐらいの立ち位置である。市民クラブを立ち上げ、歴史は浅いが努力してDivision2に昇格、良い成績を収めてもDivision1への昇格の条件を満たしていないため、一流リーグ(一流クラブ)の仲間入りを果たせない状況はそのままJリーグ(各Jクラブ)にそのまま当てはまる。

売上高1000億円の規模


マンUやレアルが1000億円稼いでいると聞くと、認知度や影響力の大きさなどの心理的バイアスも効いて物凄いことのように思えてくる。しかし実際、売上高1000億円規模の企業というのは珍しくない。

比較対象を変えれば、同じものも全く違って見えるものである。ここで、比較するのはジャニーズ事務所である。2016年の記事では年商1000億と書かれている。(しかし、SMAP解散やTOKIOの不祥事によってここ1,2年は減少傾向だろう)官報などで確認したわけではないので事実かはわからないが、海外ビッグクラブと対称的なエンタテイメント事業として最適なので取り上げる。

ビッグクラブの経営方針は(望んだわけではないかも知れないが)広く浅くである。ネット環境の普及と放映権料ビジネスが絡んで、彼らが提供する一番付加価値のあるコンテンツは試合そのものである。視聴率の高さが広告価値を高め、それによる放映権収入のビッグディールはクラブの商品価値を高めるスター選手の獲得に費やされ、それが人気拡大へとつながる好循環を生んでいる。彼らの人気の高さは、発展途上国の少年少女たちがビッグクラブのゲームシャツを着ていることからも窺える。しかしその人気の裾野の広さがあっても、贋物のゲームシャツを着るファンはクラブの売上にあまり貢献しないだろう。

ジャニーズの経営戦略はどうであろうか。近隣諸国の東アジア圏に進出はしているが、世界進出を推し進める韓流と比べるとほぼ完全にドメスティクな事業である。ニッチというより、内と外の認知度の差が激しいためガラパゴス的である。また国内で男性アイドルという独占的な市場を持ち、熱心なファンの消費行動と圧倒的な認知度によるメディア露出とそれに伴う広告価値の創出が相乗効果を生み出す。

マンUやレアル、バルサなどが世界中に億単位に届くファン、サポーター層を持つのに比べると、ジャニーズファンは日本国内の100人に1人か2人程度と見積もると百万、二百万程度であろう。これが同程度の売上を生み出すのだ。

ジャニーズファンはCDを買って(アナログ的。たぶんSpotifyでは聞けないのだろう)、コンサートに行きグッズを買い、その人気によってスポンサーを獲得する。

ビッグクラブのファンの大半はテレビかPC、スマホの前で視聴するだけである。(スタジアムで観戦できるのは1試合10万人程度までである)しかしその圧倒的視聴率がスポンサー獲得と放映権高騰に寄与している。

ちなみに、2017の国別音楽市場ランキングTOP10は
  1. アメリカ
  2. 日本
  3. ドイツ
  4. イギリス
  5. フランス
  6. 韓国
  7. カナダ
  8. オーストラリア
  9. ブラジル
  10. 中国
アメリカや韓国など音楽を輸出している国々の中で、サブスクリプションサービスが浸透せず、未だ旧態のメディアであるCDが売れ、輸出せずに自給自足する日本の音楽市場が世界2位なのだから、日本の購買力が侮れないか、または音楽が好きな国民性のせいのどちらか、もしくは両方かも知れない。

Jクラブの親会社比較


Jリーグの収益構造の半分は広告収入である。企業を親会社に持つクラブと市民クラブとがあるがどちらもスポンサー収入が収益の柱であることに変わりない。

世界のクラブも同じく2種類あるが、派手な補強を繰り返すビッグクラブは大抵前者である。大企業をバックに持つクラブか、金満オーナーの道楽か、クラブによっては国やサッカー協会が支援しているようにも見えるクラブも存在する。

日本では民主主義的な市民クラブはなく、自治体が支配株主となり小数株主に地元企業を募る地域密着型クラブが主である。こうしたクラブには金を出しても口は出せないため、また地方クラブが多く広告価値が薄いためにあまり多くの広告収入は見込めない。そのため上位の企業型クラブの収益に食い込むことは難しい。

結局Jリーグのパイを大きくするには商業的価値の向上が必要で、そのためには企業からの広告料による有名選手の獲得などで需要喚起するのが分り易い例だ。そうなるとリーグの発展には営業収益上位クラブの親会社の動向が重要となってくる。

主要なJリーグ親会社の決算一覧


湘南の親会社となった三栄建設とRIZAPグループはちょうど売上高1000億円規模の企業である。売上高を比べても面白くない。トヨタが1位で約30兆円である。

なお、DHCとCygamesは鳥栖のスポンサーであるため省いた。DHCは非上場、Cygamesはサイバーエージェントの子会社であり、DeNAの持分法適用関連会社でもある。

指標として営業利益率と営業キャッシュフローマージンを用いて比較した。


RIZAPグループは近年急成長を遂げた企業である。下はここ4年間の貸借対照表(B/S)の推移である。


4年でB/Sが拡大したのが一目でわかる。また。流動比率の推移は


となり、2015年の119%から18年の145%に改善している。
売上高は約1360億円、営業利益136億円。しかし寂しいのが営業CF。前期1億75百万円、今期87百万円。つまり本業で実際に稼いだ金額である。

企業の規模は必ずしもJクラブへの投資と比例していない。投資(広告等)のコストパフォーマンスが悪いと感じる企業もあるのだろう。W杯の盛り上がりに比べるとJリーグはニッチな市場に感じる。

潜在的なマネーリーグ


マネーリーグの本場は英国であり、スペイン、ドイツ、フランス、イタリアなどの間で選手と札束が飛び交う。老兵が向かう年金リーグは中国、アメリカに加え、日本やオーストラリアも頭角を現してきた。

デロイト・トーマツのレポートを読み、前述の国別音楽市場規模ランキングからサッカー伝統国を除けば、潜在的なマネーリーグの市場が浮き上がる。

サッカー熱の高まりが期待でき、エンターテイメントに費やせる可処分所得の多い市場は米国と中国である。日本や韓国は野球、オーストラリアはラグビー、カナダはホッケーと競合するプロスポーツが存在するが、ポテンシャルはあるだろう。一見関係なさそうなランキングがヒントを与えてくれている。

案外、DAZNがJリーグの放映権料を買った理由なのかもしれない。

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