【コラム】外資がマリノスを買収しない理由


買収する魅力がないJリーグ


独占告白「私たちはマリノスを買収するつもりはありません」
-- NEWS PICKS --

こういう言い方がいいかわかりませんが、買収をするには、市場や商品に魅力がなければいけません。(Jリーグが)今どうなっているのか、ということを考えれば分かると思います。そういう可能性があるのなら、我々だけではなくて、いろいろなところが手を挙げて要望すると思います。では、現状どうなっているのか? 自ずと答えは出ると思います


火のないところに煙は立たないと言うが、「外資がマリノスを買収」とメディアがこぞって報じたのはシティ・フットボール・グループ(以下CFG)が日本法人シティ・フットボール・ジャパン(以下CFJ)を設立したことと「日本国籍を有する個人または企業がクラブの株式の51%以上を所有していなければならない」というJリーグ規約による。「現地法人を設立したのは買収のため」と誤解されたのだ。

CFJははっきりと否定している。

何故CFGは、20%出資する大株主になったのか?


Fマリノスから「NISSAN」ロゴが消える日
-- 東洋経済オンライン --

持続不可能なクラブにそのままカネを出す投資家はいない。そこで、日産はCFGへスポンサードすることで資金を提供、その一部がFマリノスへの出資に回る仕組みをつくった。(中略)CFGを経由すれば、世界的な広告効果を狙えるうえに、CFGのノウハウをFマリノスに生かし、経営再建を図れる。死に金が“生きた金“になるわけだ。

日産は株式を譲渡していない。マリノスへの第三者割当増資でCFGは株式を取得し、日産の持ち株比率は74%に低下した。

上の記事が詳しいが、日産はリーマンショック後の赤字転落で2009年よりマリノスの損失補填を停止、損失補填を失ったマリノスは債務超過に陥り、Jリーグのクラブライセンス制度により2015年までの債務超過の解消を迫られていた。


横浜Fマリノス 財務状況


横浜Fマリノス

比較対象として浦和レッズ




上から2つは2012年、13年のマリノスの貸借対照表、3つ目は比較対象サンプルとして2013年の浦和レッズのB/S。

貸借対照表(英語でバランスシート)、簡単に説明すると、総資産=総負債+純資産となる。分かりやすいのは三つ目の浦和。マリノスは緑の部分が債務超過分。

続いて12年、13年のマリノスの損益計算書(英語でプロフィットアンドロス)。


12年は赤字、13年はギリギリ黒字。13年は黒字になったと誇らしげだが、利益たった9百万。マリノスは三人で運営してるの?と愛媛疑惑もちらり。43億の収入を綺麗に食いつぶし、まるで優秀な官僚のよう。

気になるのは12年の特別損失と13年の特別利益。

バランスシートを健全化するために、当期末に減損損失(特別損失)を約1億3千万円計上することとしました。その結果、当期は6億3千万円弱の純損失となりました。

*減損損失:資産の収益性が低下して投資額の回収が見込めなくなった場合、当該資産の帳簿価額にその価値の下落を反映させる手続き。

日産は4年間の改革のプロセスと成果を公正に評価した上で、緊急避難的な措置として、損失補填を実行することとなりました。(中略)損失全体の60%に相当する10億円を2013年度に補填し、残りについては、2014年度中に何らかの形で実行する見通しとなっております。

B/S健全化だとしてもクラブライセンスの脅しがある中で減損処理してるので、12年にはすでに親会社とは話がついていたのかも知れない。13年に10億を特別利益で計上。これが日産の補填分。上の図を見ると分かりやすい。12年の純資産が13年には10億減り、総資産に計上された。そして重要なのが引用した「残りについては、2014年度中に何らかの形で実行する見通し」。これがCFGの第三者割当出資分だ。13年B/Sの純資産マイナス6.77億円である。

東洋経済社によれば、CFGは日産のお金でマリノスに出資した。実質マリノスを救っているのは日産だが、日産にすれば広告価値の薄いお荷物のため、CFGに一枚噛ませ、経営のノウハウなど改善に乗り出した形だ。

フランス人監督モンバエルツの招聘やアデミウソンの獲得など今までにないルートの開拓はCFGの口添えだろう。

浦和レッズ 経営状況


せっかくなので浦和の経営状況もグラフ化した。浦和の財務諸表は詳しくないが、通年表記のため経過を見るのに適している。



事業体の場合、バランスシートは拡大していく方が望ましい。浦和は12年まで縮小傾向だったが、13年に拡大。負債の割合を減らし、13年では自己資本比率は50%ぐらい。公式では財務健全化してきた結果だがまだ少ないと言っているので、キャッシュを貯め込む方向性だろう。ということは当然ながら派手な補強は望めない。浦和経営陣の保守的な体制はクラブライセンス制度の影響が大きい。それでも浦和がJで移籍金なしの補強が面白いほどできるのも他のクラブの財布が小さく、紐も堅いためだ。

下はP/L。2010年に赤字を出したが回復傾向。法人税などの項目がないため推測だが、13年の純利益の減りは税金だろうか。

横浜ゴムが突き付ける現実


CFGの記事を読んだとき、横浜ゴムがスポンサードした理由はこれかと勘違いした。こちらはマンチェスター・シティ、横浜ゴムは一足早く外資で成功を収めたチェルシーである。

横浜ゴム、イングランドプレミアリーグ「チェルシーFC」と スポンサー契約を締結
-- 横浜ゴム --

チェルシーが横浜ゴムとのパートナーシップを発表、英第2位の契約に
-- Qoly --

記事によれば金額は73億5000万とのこと。これだけの金額をJに支払う日本企業はいない。

最後に横浜ゴムの分析。




一番上は売上高の推移。ここ2年で利益率は改善し、会社目標の営業利益率10%も目前。

2つ目はフリーキャッシュフロー。減価償却を戻し税金引いてなどゴニョゴニョして実際のキャッシュを計算したもの。利益は意見、キャッシュは事実と言われてるように大事なチェック項目。13年で86億なので、スポンサー料は大きい投資だが手元資金で間に合うレベル。

3つ目は一株当たり配当額(DPS)、一株あたり利益(EPS)、一株当たりキャッシュフロー(CFPS)、キャッシュフローマージン(売上高におけるフリーキャッシュフローの割合)。手元資金の中で利益を計上し配当を支払う右肩上がりが理想。13年は利益に比べキャッシュが少ない。売掛債権の回収が遅いか税金で引かれているか、それとも積極的な投資をしているか。キャッシュフローマージンはあまり高くない。

Jに必要なのは外資ではない


結局プレミアリーグは70億を払う価値があるということだ。ユナイテッドに出資する日清しかり、外資云々ではなく、日本企業でも広告価値があればそれに見合う金額を支払う。

Jリーグに価値がないのをCFG、日産、横浜ゴムが明確に指し示している。必要なのは外資を迎える準備ではなく商品価値を高めることだ。

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