トランプ大統領とブレグジットが示すもの



予測とは?


ヒラリー候補有利の事前報道を覆し、トランプが次期大統領に当選しました。昨日の開票中のトランプ優勢の悲観から米市場の好感により、日経平均は1000円幅の高ボラティリティで往って来いとなりました。S&P500先物はサーキットブレーカーを発動するまで下げ、値を戻してしまいました。高ボラティリティは市場心理の不安定から来ますが、この要因は不確実性であり、不確実性とは「予測と現実との乖離」です。

その予測をばら撒くのはマスメディアですが、その予測を立てるのはマスメディア自身やリサーチ会社、コンサルやシンクタンクなどです。

私たちはこの「予測」を「ある程度」信頼しています。例えば、天気予報にケチをつける人が少ないのは8割は当たるという経験則と情報提供源が少ないことに拠ります。この場合の予測というのはメデイア1社のものではなく、マスメデイア全体の傾向ということです。例えばメデイアによって予測にばらつきがある場合や大きな差がある場合、予測の確度が薄く大方拮抗を示すでしょう。この場合は予測より予想、思惑といった方が適当でしょう。つまり予測とはマスメディア全体である程度整合性のとれたものであるということが前提です。あるテレビ局では「晴れ」なのに違う局では「雨」ということでは信頼が揺らぐということです。

ビッグサプライズ


我々は予測を信頼し動くので、好む好まざるに関わらず「予測」に対して「期待」します。なので予測が裏切られることは期待が裏切られることと同義となり、サプライズをもたらします。

トランプ当選とブレグジットはビッグサプライズですが、ここまで関心と重要度の高いイベントで悉く起こったことは、統計と統計学、それと深く関わるマスメディアに示唆を与えるでしょう。

予測の誤謬


ブレグジットとトランプ当選に共通して見える原因はいくつかあります。その中で予測として現実を色濃く反映したのは各英米メディアの選挙前の事前調査です。ほぼ拮抗しながらも僅差で優勢であることをそのまま反映していましたが、その結果をその数字通り受け取るマスメディアは皆無でした。

今回の予測で今まで実績のある FiveThirtyEight は、選挙前日のヒラリーの当選予測は70%でした。これは炙り出された民意とはかけ離れています。こんな誤った統計ならない方がマシです。

「予測の誤謬」の予測を立ててみます。

(1)マスメディアのバイアス
(2)統計の不適当なサンプル
(3)地域間格差
(4)世代間の人数差
(5)年齢、人種、宗教、趣味のブロッキング

(1)は(3)に繋がります。
新聞を含むニュースメディアはほとんど都市部にあり、都市部は人種のるつぼなので政治思想はリベラルです。田舎は伝統的に保守で共和党の地盤です。ヒラリーは接戦州でほとんど負けているので浮動票はトランプに流れたとみていいでしょう。

メディアは自身の信条を発信し続け、それに共感できるのは都市部の人だけでした。トランプは民主党だけでなく共和党にも勝ち、メディアに対しても勝利しました。この事実は地域間の格差が想像以上に大きいことを映しています。

(2)はサンプルが小さすぎるか、もしくは偏っているかでしょう。

下は今回の選挙の年齢別の割合、人種別、性別別の割合です。



40代までがヒラリー、40以上がトランプ。
白人がトランプ、黒人、ヒスパニックはヒラリー。

これを見ると偏りが明らかです。これに都市と地方で青と赤に分かれるので、理想的な縮図をとるのが難しかったのかもしれません。

これを例えると、撹拌されていない水溶液のように水と沈殿物が分かれている状態です。撹拌されていないので濃度はコップ全体を見なければ分りません。要するに選挙をしなければ分らないということです。

データからは理想的なサンプルを取れなかった実情とアメリカ大陸の分断が垣間見えます。

(4)は先進国が抱える問題です。ブレグジットを選んだのは高齢層で田舎ほどその傾向がありました。医療保障制度のオバマケアはおじゃんになるでしょう。ブラック・ライブズ・マターと叫ぶことで白人に敬遠され、本当のブラック・ライブズ・マターを失うとは皮肉です。高齢層の投票は、平等、平和、友愛よりも自分たちの収めた税金を自分たちに使ってくれという意思表示に思えます。

(5)は(1)に通じるのですが、今はSNSなどで同じ考えや情報を共有できる小さなコミュニティを沢山持てます。これが意味するのは井の中の蛙です。反対意見のないクラスタでは自身の考えが正当化しやすいです。また共感や共有を通してクラスタを自身と同化し始めます。これにより社会への見方にバイアスが生じます。

今回でいえばリベラルも保守も同じで、自身の正当化と排他的であること、それによるバイアスが互いの姿を歪めているというのを実感します。

プレジデンシー


政治に必要なのは信条の正しさの証明などではなく、実務です。特に外交では功利主義、現実主義につきます。政治経験のないトランプを立派に仕立てるのは連邦政府には簡単でしょう。大事なのは甘言を弄しながら締め上げられるかです。彼が 'nasty man' と言われるようなら大統領にふさわしいでしょう。

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