森脇、関口、興梠の浦和移籍、サッカーマーケットの成熟とリーグの繁栄


森脇、関口に続き、興梠も移籍が決まりそうである。

今回の浦和の補強はすべて移籍金ゼロである。


市場は自由競争で成り立っている。
欧州に倣い、2009年からJリーグも移籍制度を改めた。
決して万能ではないシステムのため、
戦力の不均衡を生み出し、ヒエラルキーを形成する。


国内移籍はJリーグ市場の総和に変化を与えず、
パイの奪い合いに過ぎない。
だからこそ浦和は非難されうる対象になっているが、
市場の拡大を目指す上での収斂なのではないだろうか?

ここから進展しそうな可能性が以下に挙げられる。

1、均質リーグの矛盾と破綻
2、リーグ再編(プレミアリーグ化)と秋春制への移行
3、クラブのビジネスモデルの構築とファン、サポーターの意識改革


まず、現状の移籍制度を確認し、その後上記3点を考察する。


【寺野典子コラム】移籍金ゼロの移籍

以下引用
“「契約延長はしない」「単年契約でしか契約は結ばない」
 契約満了後の移籍金ゼロでの移籍を考える選手はそう主張するだろう。
「複数年で無ければ、契約はしません」「契約延長に応じないのなら、試合には使いませんよ」
 そんな強気の態度をレギュラークラスの選手に示せるクラブも少ないだろう。
 欧州では、クラブの意向に沿わない選手が、ときおり試合から干されてしまうこともあるが、Jリーグでは「契約をしてもらえるのならば、あなたの条件をのみます」とクラブが折れる場合も多いように思う。”



移籍制度自体は選手協会が交渉し勝ち得た。
これにより、若手選手の移籍に発生する育成補償金制度を導入した。


トレーニングコンペンセーション(TC:育成補償金)制度問題

以下引用
国内移籍の場合は1年あたり倍以上の800万円ものTCが必要になり、国内移籍の方が海外移籍よりハードルが高いということになります。となると、選手は、国内移籍よりも海外移籍を選択する可能性が高くなり、若手がどんどん海外に流出し、Jリーグが空洞化する危険性もあります。


重要な要点は次の2点である。

★制度が選手とクラブの地位を逆転し、選手に有利な契約が結べるようになった。
★現行のトレーニング育成費は不均衡であり、海外移籍の方が割安である。


移籍制度改正と、香川や本田、長友などが能力を証明し、
それにユーロ危機の不況が重なったことによって、
若手選手の海外流出が加速したのである。


1、均質リーグの矛盾と破綻


Jリーグは日本人選手の国内大型移籍が少なく、
長年均質リーグと呼ばれてきたが、
ここ数年の特殊性は際立っている。

昨年J1昇格した年に優勝した柏や今年の鳥栖の健闘、
リーグ中規模でありながら優勝した広島や好成績の仙台など、
毎年優勝チームが違う珍しいリーグとなっている。


なかでも、年俸総額のヒエラルキーの崩壊を如実に表したのは
今年のガンバ大阪のJ2降格であろう。

現代表のレギュラーを2人も抱えながらの降格は
恐るべき矛盾を示している。

この矛盾を端的に表現すれば、
「フロントの無能」に帰するが、
原因はそんなに単純であろうか。

要因は以下が考えられる。
(下記内容は特定クラブ以外にも当て嵌まるよう固有名詞を用いていない)

①親会社の経営不振と不況
②クラブライセンス制度適用によるクラブ財務状況の健全化の推進
③監督の権限(マネージメントとコーチング)とGM、クラブ首脳との関係と透明性

ガンバに関しては①のパナソニックの不振と②により
支出のスリム化を監督に求め迷走を極めた。
監督交代が既定路線であり
監督人事に問題があったにも拘らず、
責任の所在は明確にされないままうやむやになった。

浦和に関しても③は長年の問題であり
世界中多くのクラブで見受けられるものでもある。
毎年、至る所で多くの監督が簡単に解任されることが、
常に監督の流動性を確保をしている要因であることも皮肉である。

ケルンのGMであったフィンケは自身が招聘した監督とそりが合わずに解任されるように、
マネージャーとコーチはクラブ首脳の信任を必要とし、
クラブ首脳は親会社の取締役会に信任されればよいのだ。

民主主義はソシオ制でしか実現されない。
「民主主義は最悪の政治形態ではあるが、他の政治形態に比べればいちばんましである」
とはウィストン・チャーチルの言葉であるが、
人気取りと能力は一致しない、
ただ腐敗を防げる点でのみ優れているのであれば、
確かに取締役会よりはましそうである。

閑話休題。

年俸総額上位の低迷は理由は様々あるだろう。
前年の好成績によるACL出場の影響、
不況下の減収による補強不足、
選手の高齢化と年俸の不釣り合い等々。

いずれにしても①②の影響は明らかであり、
財政規模の大きさに比例して赤字が大きいように
その収縮も大きくなった考えられる。

中小クラブは規模に比例して赤字が小さいため、
不採算を清算するのは容易であろう。

こうして相対的ビッグクラブと中小クラブの戦力の差は縮まり、
リーグの均衡化が進んだのだろう。

②はあくまで今年からの適用であるが、
長年の不況と大震災、そしてリーグ自体は拡大を努力していても、
有望な若手選手の移籍がクラブを潤す違約金の獲得に結び付いていないため
抜けた穴を埋めきれず、縮小傾向と言わざるを得ない。


しかし、これからの均質リーグは破綻するだろうと予想している。
理論はこうだ。

好成績を収めた中小クラブは選手引き留めのために
活躍を評価せざるを得なくなり、
今後の成績によっては自ら首を絞めることにもなり得る。
そうなった際はクラブライセンス制度が重くのしかかるのは想像に難くない。


逆に相対的ビッグクラブは不良債権化した選手の整理や
不採算部門を清算し、
徐々に補強する体力を取り戻すだろう。


また、2009年の移籍自由化から3年たったことが
とても大きな変化を生み出した。
それは一般的な契約年数を3年とすると
今年が満了する年だということだ。
それはクラブ間での競合を起こし、
財力のあるクラブ、もしくは魅力のあるクラブへの移籍に拍車をかけることとなる。

このことを今回の浦和の移籍が象徴していると言える。
森脇、関口は上位チームから、興梠は常勝チームからの移籍であり、
一見矛盾に見える移籍劇が3件も成立したことは、
均質リーグの矛盾を証明した形になる。

長らく均衡化したリーグに一時代を築いた浦和や名古屋は
不況のあおりで収縮せざるを得なかったが、
ここにきて移籍自由化を享受する国内クラブが初めて誕生した。

サッカーだけではなく、ビジネス競争が始まる狼煙となるだろう。


2、リーグ再編(プレミアリーグ化)と秋春制への移行



今まではリーグ維持のために多くを規制してきた中、
近年リーグの拡大化に向け規制緩和を進めている状況である。

それでもトレーニング育成保障金制度のように、
国内クラブへのプロテクトが
国内移籍の障害と海外移籍の促進につながるなど
改善点は多く残されている。


しかし、Jリーグも手をこまねいている訳ではない。

プレミアリーグ構想
秋春制への移行
J3構想
海外向けの放映権ビジネス
ビッグスポンサーの獲得

国内での人気が飽和状態とは言い難い中、
代表人気が還元されづらい状況を打破するための
リーグの拡大化であると解釈している。

そのためにはリーグのプレミアム(付加価値)を打ち出す必要性がある。

地方クラブを盛り上げるための地域密着を謳うのに異論はないが、
強く魅力あるビッグクラブが存在しなければ
J1の人気や活況に結び付かないのは自明である。

グローバリゼーションによるナショナリズムの台頭もあり
ACL優勝やCWCなど国際大会の好成績が
人気拡大には必須であろう。

(外国人枠は国際大会のレギュレーションに沿う形が妥当で、
JリーグとACLの違いは在日枠の有無のみでり、
外国人枠拡大は議論の対象になりえない。)

現状、天皇杯優勝がACL出場の1枠となっていて
J2クラブが出場できてしまう状況は
J1の不甲斐なさとプレミアムのなさを痛切に感じる。

無理難題の秋春制を頭ごなしに否定するのは簡単だが、
それを採用したい理由も検討し妥協点を探る努力ぐらいはすべきだろう。

今まで裾野を広げてきた結果が停滞の一因となっている。

共存共栄は理想ではあるが、
均質リーグで盛り上がるのは内輪だけで、
人気拡大には結びつかないだろう。


3、クラブのビジネスモデルの構築とファン、サポーターの意識改革


移籍金ゼロでの海外移籍については上記リンクが詳しい。

前提として、選手に自由が与えられたのだ。
選手が夢を口にするたび、ジリ貧になっていくクラブにあなたは堪えられるだろうか?


移籍金ゼロの国内移籍に憤る心情は理解はできるが、
移籍金ゼロの海外移籍を手放しで称えることは理解できない。

自身のクラブから巣立った選手が有名リーグで活躍するのは誇らしく、
箔がつくというのは分からなくはないが、
そんな感情を抱くのは愛するクラブチームを持たないものだけでいいだろう。

自分の愛するクラブを袖にされてまで
海外クラブの権威に媚びているのは、
自身のチームに誇りを持てない証なのではないか。

選手の心情を汲めるファン、サポーターは優しく懐は深いのだろうが、
裏切られた際の反動もまた大きい。
また、そういった優しさがビジネス感覚のないクラブにさせてしまう温床になりはしないだろうか?

また、今より条件の良いオファーが来ても
残留を希望する聖人君子のような選手が何人もいるわけではないのだ。

大事なのは、搾取されている現実をクラブ、ファン、サポーターが知ることである。


クラブが条件的に不利なのは致し仕方ない。
出来るとすれば、
若いうちに長期契約を結ぶか、
利益を優先し早めに売り払うか、
損を承知で飼い殺すしかないだろう。

大事なのは、
クラブが損ばかりを被らないよう毅然と対処し、
それをファン、サポーターに支持してもらうことである。


自由競争とはビジネスの基本原則であり、
弱肉強食の世界であることを
今回の浦和の補強はJリーグに見せつけた格好になった。

もはやJリーグはブンデスリーガだけでなく、
財と人気のあるJクラブの草刈り場の様相を呈している。

ただ一つ相違点があり、、
今回の浦和移籍の3名が20代中盤なのは
あくまで即戦力としての補強ということだ。

若手を引き抜く多くの海外クラブはプロビンチャで
浦和はリーグの相対的ビッグクラブに相当するだろう。

浦和はリーグ随一の入場料収入と広告収入の経営基盤で、
リーグトップの人件費を親会社の損失補填契約なしで賄える体力を有している。

名古屋、マリノスと違うのは自立経営という点である。

「儲かっているから移籍金を払え」などと言ってる時点相当甘い。

浦和はビジネスをしているのだ。


浦和は細貝の一件があったからこそ、
原口と長期契約を結べたのだ。

今だからこそ欧州のビジネスマンから学ばなければならない。
浦和を嫌悪するだけでなく、浦和のビジネスから学ばなければならない。

プロビンチャとして生き抜くには、
その自覚と覚悟が必要だろう。

サッカーマーケットの成熟とリーグの繁栄は密接に結びついている。


弱者面してサッカーマーケットを否定することが
リーグの縮小と停滞を生み出すことを理解して頂けたら幸いである。