Haunt Me, Haunt Me Do It Again

「人はなぜ追憶を語るのだろうか。
 どの民族にも神話があるように、どの個人にも心の神話があるものだ。
その神話は次第にうすれ、やがて時間の深みのなかに姿を失うように見える。
――だが、あのおぼろな昔に人の心にしのびこみ、そっと爪跡を残していった事柄を、
人は知らず知らず、くる年もくる年も反芻しつづけているものらしい。
そうした所作は死ぬまでいつまでも続いてゆくことだろう。
それにしても、人はそんな反芻をまったく無意識につづけながら、
なぜかふっと目ざめることがある。
わけもなく桑の葉に穴をあけている蚕が、自分の咀嚼するかすかな音に気づいて、
不安げに首をもたげてみるようなものだ。
そんなとき、蚕はどんな気持がするのだろうか。」

北杜夫 「幽霊」冒頭より

私にとっての「蚕の咀嚼する微かな音」は

Tim Hecker / Ghost Writing である。


「Haunt Me, Haunt Me Do It Again」収録

環境音楽と訳されるアンビエント・ミュージックは
私にとってイメージ、追憶の想起のトリガーでしかない。
が故に、エスケープ・ミュージックでもある。

何かに疲れたとき、
まるで取り憑かれたように
自分に浴びせ続ける音楽でもある。

朧げな憧憬が表れては消える。

「つかまえてごらん、もう一度」

そんな一枚。

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