ディナモ・フットボール


ディナモ・フットボール 宇都宮徹壱著


一言でいうならば、フットボール版 深夜特急だろうか。
サッカー書籍でありながら、詳細なゲームレポートや戦術に関する考察などは一切なし。
それもそのはず、宇都宮氏はフォトグラファーである。
(スポナビでコラムを見かけますが…。)
しかしこれは、純然たるフットボール書籍である。

フットボールの楽しみ方は1つではない。
勿論、その主軸はゲームになるけれど、
そのクラブ、サポーター、積み重なる歴史、生み出されるドラマ、立場や見方によって様々に形を変える。


この本の中ではスポーツを政治に利用しない常識は通用しない。
政治のプロパガンダの為に利用されるフットボールクラブ。
買収されるタイトルと約束された名門の栄華。
煮え湯を飲まされ続ける、抑圧される労働者たちの庶民クラブ。
政治の転換と共に取り残される黒歴史。

共産主義の理想は打ち破れ、
資本主義の競争に負けた人々は
自分たちのアイデンティティーをフットボールに求める。


サッカーの質を追い求めるのなら、CLに行き着くだろう。
資本主義のマネーゲームと化し、
華々しい舞台を超一流選手たちが彩る。
お金の為のフットボールは、
政治の為のフットボールによく似ている。

ビッグクラブだから歓びを味わえる訳ではない。

大きいクラブであれ、小さいクラブであれ、
クラブの誇りのために戦う選手と
アイデンティティーのために歌うサポーターだけが
フットボールの歓びを享受できる。

そう感じた一冊。